真紅は黒みがかってこそ美しい


「キリコ。」
 ブラックジャックは、目の前の、気障ったらしい仕草が嫌味なほどはまる男に呼びかけた。
「なんだ?」
 自分に向ける顔はいつも余裕に満ちていて、それがブラックジャックにはおもしろくなかった。自分だけが振り回されて弄ばれているような気がするから。
 今日もそう、いつだって主導権を握っているのは奴だ。しかし、ここで意外な反応――たとえば、にっこり笑って「ありがとう」と返すとか――なんてできようはずもなく。いつも通りつっけんどんに切り返した。
「なんだこれは。」
 我ながら可愛げのない、と思うが、愛くるしさに満ちた自分など想像もしたくない。
「お前さん、好きだろ? 紅い薔薇。」
 余計な包装もせず、むき出しの一輪は、またひどく美しく見えたが、ブラックジャックはあえてそれを無視した。そんなことまで狙ってこれるエロ紳士ぶりが腹立たしいのはなぜだ。奴がどんな手段でどれだけ女を口説いていようと、自分には関係などないではないか。
男同士、敵対関係、相手は色男で自分はつぎはぎだらけの身体の、可愛げもない男。そう胸の内で自分と奴との間にある障壁を並べてみたが、これではさらに嫉妬でもしているようではないか。
馬鹿馬鹿しくなって、無造作にキリコの手から薔薇をひったくる。そこで初めて、キリコの白くて大きな手が、黒みがかった真紅をより映えさせていたのだと気づいてしまった。そこまで計算ずくなのだろうか、そこまで計算できるものなのか。だとしたらキリコはそれだけの熱意をこの薔薇に込めたのだろうか。そうであってほしい、などとは意地でも思いはしないが。
「そうだな、黒に映えるから。真紅ってのは黒みがかっているから。乾いてどす黒くなった血の色だ。私にふさわしいだろう。」
 皮肉ってみたが、ああ似合ってるぜとさらりと返されてしまった。ついでに、OPとかでも持ってたしな、あれって明らかに女受け狙いだろ、嫌味だねぇ。とか余計なことを言われる。嫌味はどっちだ。まるで女を口説くように、いきなり来て花を渡すなんて気障な真似、百戦練磨のエロ紳士(認定してやるとブラックジャックは決めた)でなければできないだろう。
 腹立ちまぎれに、ふと仕返しを思いついた。やられっぱなしのブラックジャック先生ではないのだ。
「キリコ、心理テストでな、こんなのがあるんだ。」
 からかうような笑みを浮かべてみせたが、キリコは慈しむように片目を細めただけだった。内心むかっときながらも平静を装う。
「花を渡すとき、男のエロ度がわかるんだ。」
 わざとらしく抑揚をつけてみたが、無反応のエロ紳士。自覚ないのかお前。
「花束ならいわゆるむっつりスケベ、鉢植えなら愛情を育んでいこうとする奥手なタイプ。一輪だけというのは――」
「だけってのは? ブラックジャック先生?」
 誑しこむような笑みを浮かべるその姿に確信を持って、なぜか悲しくなった。
「典型的な狼タイプだ。Dr,キリコ。」
 その言葉を聞いて、キリコはにやりと笑った。そしてなにも答えない。それになぜかむきになって、咎めるように自分から言ってしまう。
「お前は狼だな、キリコ。平らげたら後ろは振り向かない、一晩で去っていく狼だ。」
「確かに狼だな、俺は。」
 返答があったのが、ほっとしたような苦しいような。なぜ自分はこんなにもこの男に翻弄されるのか。いらだたしさをぶつけるように、なじった。
「一夜限りの狼だ。」
 そうやって私のことも捨てるんだろう? 女々しい言葉は胸に仕舞って、クールな顔をしてみせた。いつもの、ブラックジャック。
「この薔薇は植えよう。」
 沈黙の間を置かず、キリコは言って、窓際の鉢を取りそこに薔薇をそっと植えた。予期せぬ行動に、ブラックジャックは唖然とした。薔薇って切り花を土にぶっ挿していいものなのかとか、細かいことはまあ置いといて、だ。
「絶対に根が張るさ。」
 馬鹿だな。せっかくの男前も気障な言い回しも、泥だらけの手では様にならない。お前って、そんな奴だったか? 喜びなどより呆れた。でも、悪くはなかった。
 手の泥を拭けと、ウェットティッシュを放ってやると、今度はキリコがからかうように言った。
「知ってるかブラックジャック。」
 自分の言葉を待たずにキリコは続けた。
「真紅の薔薇は最愛の人に捧げるんだぜ。」

背景無くてスミマセン・・・

 手をとられ、手のひらに口付けられた。エロ紳士め、どうしてそんな気障な真似ができるんだ。
 内心どぎまぎしつつも、冷たくジト目で見つめてやると、キリコは柄にもなくしゅんとして、そしてやおら窓を開け放ち、辺りはばからぬ馬鹿丸出しのとんでもない叫びを上げた。
「愛してるぜーっ! ブラックジャー……っぶ!?」
 ごっっ! と、ブラックジャックの投げた本のちょうど角が、キリコの後頭部を直撃した。
「馬鹿かーっ! なに考えてんだ、お前!」
 ぴしゃりと窓を閉めてキリコに詰め寄ってみたが、キリコは妙に爽やかな笑みを浮かべ、
「いや、たまにはティーンのガキみたくなってみたらお前が喜んでくれるかと。」
と返してきた。頬が熱くて、自分でも真っ赤な顔をしているんだとはわかったが、あまりのことに隠すこともできない。
「……効果あったみたいだな。」
 そんな自分を見て、エロ紳士は獣の笑みを浮かべた。獰猛で、しかし見入ってしまいそうなほど美しい。
「さて、夜は狼の時間だぜ、愛しのブラックジャック?」
 窓の外では、真っ赤な月が狂い咲いていた。
 血のような真紅。闇をはらんでこそ美しい、魔性の色――
 紅くて黒い夜が、始まる……



END


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 サイトの一周年記念に、美姫様から頂いたキリジャ小説ですvV
 も、萌 え っ・・・!! 私を萌え殺す気ですか・・・!(吐血
 BJとキリコ、二人のやりとりが凄くカッコイイ!ビバ★エロ紳士(笑)
 そして世界の中心で(←ネタ古いから!)愛を叫ぶキリコがまた素敵☆
 やはりキリコは「アホエロい」が基本ですよね!(笑)

 美姫様、素敵な萌え小説ありがとうございました〜!!

 さらに恐れ多くも挿絵なんぞを付けてしまいました・・・雰囲気ぶち壊してスイマセンm(_ _)m



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