St. Valentine’s Day




「ねえ、ククールって甘いモノ好き?」


ある日の午後。
眠くなってきた頃だから二時くらいだろうか。
突然前を歩いていたエイトがオレに聞いてきた。

「あ? オレは甘い事なら好きだぜ? 何だ、甘いセリフでも言って貰いたいのか、エイト?」
エイトの肩を引き寄せ囁くと。
「事じゃなくて物だってば!」
顔を赤くしたエイトが焦ってオレの肩を両手で押しやった。

そんな慌てた素振りも可愛いな〜。
なんて思ってると。
急に後ろからヤンガスとゼシカ、それに何故か馬姫様とトロデ王の殺気を感じてオレは身を引いた。

「物か・・・嫌いじゃないぜ。お菓子の類なら大抵食べれるけど。まぁ、酒とかの方が好きだけどな」
「お酒かぁ」
「で、何だ?」
「ううん。何でもないよ」
「そうか」

エイトが何でもない話しをいきなりするのは変だなとも思ったが、何か言いたいなら自分から言うだろうからそれ以上追及しないことにした。

その直後に魔物が現れたせいもあって、その時の疑問は頭から消えていた。








それから約一週間後の夜。
風呂からあがって部屋に入った途端、エイトに呼び止められた。
「ククール」
「なんだ?」
「いつもありがとう」

嬉しそうな微笑みと共にそう言って渡されたのは、掌に乗るサイズの箱。真っ白な箱にはピンク色のリボンが飾ってあった。

「これ・・・?」
「開けてみて」
「ああ・・・」
リボンを解くと、中から星やハート型をした可愛いチョコが姿を現した。

「これは・・・・・・?」
「ククールがお酒好きだって言うからウィスキーボンボンにしてみたんだけど・・・嫌いだった?」
「いや、そういう意味じゃなくて・・・・・・」
エイトは首を傾げると、不思議そうな顔をしてオレを見つめた。

「今日はバレンタインだよ? ククールのところには無かった?」
「???」

いや、あったけど・・・あれって「好きです」って女の子から男に告白するイベントじゃないのか!?

エイトはそういう意味で・・・・・・??!!!

と考えかけて、頭を振った。
・・・待て。そんな都合のいいことはない。
確か・・・さっきエイトは「いつもありがとう」とかって言ったよな? 何だこれは?

「どうしたの、ククール?」
「あ・・・ええとな、お前バレンタインって・・・・・・好きな奴にチョコをあげるって知ってるか?」
「うん。知ってるよ」
!!??

「だから王と姫に差し上げるのはいつもなんだけど、今回はククールとゼシカとヤンガスにも、と思って」

・・・・・・・・・・・・。
・・・やっぱりそういうオチか。
一瞬でも浮かれてしまった自分が情けない。エイトに非はないけれど、ちょっと意地悪したくなった。
・・・否、無邪気にそんな事言えるんだから悪魔だよな・・・。

「オレのところじゃチョコをあげるってことは好きですって告白することなんだけど? そう捉えていいのかな? エイト君」

「・・・・・・・・・・・・え―――――――?! 本当に??」
「ああ」
「俺のところでは、日頃の感謝の意味も込めて男女関係無く送るものなんだ」
一気に真っ赤になったエイトは、捲し立てるように言うとひと息置いて、落ち着いてからまた口を開いた。

「・・・・・・ごめん、ククール。嫌な思いさせちゃって・・・」
「嫌な思い・・・って?」
「だって・・・男の俺から貰っても嬉しくないっていうか・・・気味悪かったよね・・・」
しゅんと項垂れる。

「オレはそういう意味でもいいんだけど?」
「え・・・?」
「お前からなら告白されたら受け取るって事」
チョコを一口頬張る。
噛むとシャリっといい音がして中から濃い酒が出てきた。結構美味い。

「美味いな。ありがとう」

エイトを見ると。真っ赤になったまま固まってしまっていた。
イタズラがすぎたか? ちょっとからかうつもりだったのに。

我ながらバカな事言ったかな・・・。
そろそろ冗談だって言ってやらないと可哀想かな、と思って口を開こうとすると。

「本当に・・・・・・? 俺がククールを好きだって言ったら・・・受け取ってくれる?」

マジか??

二個目を手にしていたオレはそれをポロっと落としてしまった。
それを違った意味に捉えたらしいエイトは、顔を曇らせてしまう。

「ごめん、今の冗談だから・・・だから、忘れて・・・」
今にも泣きそうな声。語尾が震えていた。

エイトは踵を返して立ち去ろうとする。
オレは咄嗟に彼の手を握った。
振り向いたエイトの瞳には涙が浮かんでいて・・・それを目にしたオレは愛しさが込み上げて来て、彼を強く抱き締めていた。

「そんな事言うなよ。忘れてって言われて忘れるわけないだろ? それに今まで冗談なんて言った事無い奴が何言ってんだ。・・・オレだってお前の事が好きなんだから・・・だから、泣くなよ」
濡れた瞳が見開かれた。

「ホント・・・?」
「ああ」

その瞳を真っ直ぐに見つめ、頷く。
親指で涙を拭ってやると、そのままエイトの唇に口づけをした。
さっき食べたチョコレートのように、神経が少し酔わされるような甘いキス。
今までバレンタインっていうとくだらないイベントだと思っていたが・・・・・・こういうのなら大歓迎だなと、エイトの笑顔を見て思った。



END.





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松岡圭嬢のサイト「月の魔法」で1098番を踏んだ際にリクエストしたクク主小説です。
「バレンタインネタでクク主」というリクエストにこんな素敵小説をありがとうございました!!
ほのぼのラブな二人にニヤニヤしてしまいますvV

ちなみにこの話には完全版があって、そちらは同人誌「Nobody knows even God」に私が挿絵を描いて収録しました。



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