《ゆきのひ。》

 その日は、久しぶりの晴れだった。
 サテュロスは、一人、雪原にいた。とはいえ、鍛錬ではない。今日の鍛錬は、ひとまず終わらせている。パートナーのメナーディに、ここに来るよう言われたのである。
 しかし、肝心の彼女の姿は無い。それでも一応、サテュロスは周囲を見渡してみる。
 と。
 ひゅんっ!
「おっと」
 背後から飛んできた何かを、サテュロスは器用に避ける。するとそれを皮切りに、四方からそれがどんどん飛んでくる。そのすべてをひょいひょいと、実に上手く避けるサテュロス。運悪く、そのうち一つが彼の腕に辺り、粉々に砕けた。
「……雪?」
「そうよ」
 彼女の声がした。
 声のした方に目をやる。立ち枯れの木の裏のようだ。
 何だか嬉しそうな表情を隠さずに、彼女は姿を現した。手には、幾つもの雪玉を持っている。
「さすがお主だ。よく避けるわね」
「ふん。わざわざ来てやれば、雪合戦だとはな。茶番だな」
 雪合戦など、子供の遊びである。
 しかしメナーディは、昂然と笑う。
「はん。茶番とは、よくぞ言ったわね。それでは、今日はその茶番に付き合ってもらうわ。雪玉を、全部避けられるわね?」
 だからそんなことに付き合う気はないと、言いかけた彼の側を、雪玉は飛んでいく。続けざまに、二個目、三個目と、彼女は彼を狙った。
「問答無用!とにかく、避けてみるがいい」
 どうやら、付き合うしかないらしい。
 どうせ、暇だったのだろう。ついこの間までは、会うたび会うたび背後からデンジャラクトを放たれていたが、最近はそれが無い。何回か連続でそれを避けたため、彼女は彼に及第点を与えたらしかった。
 ひゅんひゅんと、中々鋭い弾道で、雪玉は投げられた。
 実に器用に避ける様は、先ほどと大差ない。しかし彼女も彼女だった。一度に投げる球の数が、一個から徐々に増え、終いには4個になった。枯れ木のうろか何かに、いっぱい作り溜めをしているらしい。
 次第に避けきれなくなったので、炎の剣を以て、雪玉のいくつかを斬り捨てることにした。ただ避けるだけより、遥かに効率がいい。
「やられっぱなしも、おもしろくないな」
 ふと、彼はそんなことを思う。幸いにも、少しながら、余裕が生じている。かがみざまに雪を掴み、丸めて彼女に投げてみた。
「ほう!やる気か?」
 彼女は、投げるのは得意でも――そのコントロールの多彩さは、さしもの彼も舌を巻くほど――避けるのは不得手らしい。しかし彼女は、何だか楽しそうだった。黄金の髪が雪まみれになることも、一向に構わないらしい。
 たまには、こういうのもいい。
 半刻ほど経って、メナーディが動きを止めた。その時になって初めて、サテュロスは自分の息が上がっていることに気付く。
「いい鍛錬だったろう?」
 メナーディは唇の端を不敵に歪める。
「今朝、思いついた。雪玉を避けることは、敵の飛び道具を避ける鍛錬になるだろう。当たっても怪我にはならないしな」
 何でも戦うことにつなげられる彼女は、やはり女戦士なのだと思う。サテュロスのパートナーとして、最高に相性がよい。弱い者を、彼は必要としていない。弱い者をたすけることを、彼女は求めていない。
 やおら、すっ、と彼女は手を差し伸べた。
(握手か?)
 小さく鼻で笑うサテュロス。健闘を称えたいのだろう。握手ぐらい、減るもんでもない、やってやろう、と手を伸ばした。
 瞬間――メナーディは、もう片方の手も、彼に伸ばす。
「隙あり!デンジャラクト!!」
 しまった、と思ったときにはもう遅い。
 サテュロスは、雪原にもろに吹っ飛ばされた。

 彼女の真の目的は、どうやら、デンジャラクトを彼に当てることにあったらしい……。

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 美佐野様のサイト「NOTE」にて、1000Hitを踏んだ際にリクエストしたサテュメナ小説です♪
 おぉおお雪合戦をする二人が素敵過ぎます・・・!
 恋人のようで恋人ではない、そんな美佐野様の書かれるサテュメナはまさに私の理想ですvV
 美佐野様、素敵な小説をありがとうございました!
 そしてデンジャラクトで吹っ飛ばされたサテュロス・・・ご愁傷様(笑)



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